対象疾患

機能的脳神経外科疾患

当科では、薬剤抵抗性てんかん、片側顔面痙攣・三叉神経痛、正常圧水頭症、重症痙性麻痺など様々な機能的脳神経外科疾患に対する外科を行なっています。

薬剤抵抗性てんかん

抗てんかん薬の内服にもかかわらず、てんかん発作のコントロールが困難な患者さんは約3割おられます。当科では、そのような難治性の薬剤抵抗性てんかんに対して、外科治療を行っています。
当院におけるてんかん外科治療の特徴として、神経内科(16歳以上の成人を対象)・小児科(15歳以下の小児を対象)・精神科神経科・放射線科・検査部と密に連携して、患者さんに最良な治療方針を選択しています。具体的には、当院はCT、MRI、ポジトロンエミッショントモグラフィー(PET)、脳シンチグラフィー(SPECT)、神経磁気計測装置(脳磁図、MEG)、256chデジタル脳波・ビデオモニター装置、プロポフォールを用いた和田テスト(血管撮影装置)などすべての検査機器を装備しており、これらの検査機器を駆使し、薬剤抵抗性てんかん患者さんのてんかん原性域(てんかん発作の焦点)を評価しています。その結果に基づいて、各部門から構成される合同カンファレンスを毎月開催し、治療方針を決定しています。カンファレンスの結果、手術で改善が見込めると考えられた患者さんに対しては、当科のてんかん専門医より手術のベネフィット、リスクを詳しくご説明します。
てんかん外科手術には、根治を目的とする治療と緩和を目的にする治療があります。根治を目的とする手術は、てんかん原性域を切除する手術です。諸検査でてんかん原性域を正確に同定し、その部位を切除しても大きな後遺症を残さないと判断し得た場合に、開頭手術によりてんかん原性域を切除します。病変の部位によっては凝固術も行っています。特に、海馬を中心とした側頭葉にてんかん原性域が存在する側頭葉てんかんに対して、今まで100例を超える患者さんに前側頭葉/海馬切除を行ってきましたが、70~80%の患者さんが術後に発作がみられなくなっています。

一方、諸検査でてんかん原性域がはっきりとわからない場合や、てんかん原性域が運動/感覚/言語などの重要な働きをもつ場所に存在することが予想される場合は、頭蓋内に電極(硬膜下電極や深部電極)を留置し、てんかん原性域をより詳細に同定し、電気刺激でその部位の脳機能を十分に確認した上で、てんかん原性域の切除手術を検討します。

当院ではさらに、神経内科・臨床神経生理学教室・検査部と連携して、発作焦点に特異的に出現することのある低周波/高周波の解析による発作焦点の絞り込み、脳内の機能ネットワーク/てんかんネットワークの解析など、先進的な手法を行うことで、従来の検査ではわからなかったようなてんかん焦点の検出にも力を入れています。
てんかん原性域が脳の重要な働きをしている部位や脳の広い範囲に存在する場合には、緩和を目的にする治療を行なっています。開頭手術による軟膜下皮質多切術(MST)や、脳梁離断術、半球離断術を行い、良好な成績をあげています。また、迷走神経刺激療法(VNS)を多くの患者さんに対して行い、良好な発作コントロールを得られています。

片側顔面痙攣・三叉神経痛

片側顔面痙攣は目の周りや口の周りに不随意な痙攣が起こる疾患です。三叉神経痛は顔面の耐えがたい痛み(電撃痛)を起こす疾患です。いずれの病気も多くは、神経(顔面神経、三叉神経)に対する周囲を走行する血管の圧迫が原因となっています。片側顔面痙攣の治療法には、薬物治療やボツリヌス毒素の局所注射(ボトックス療法)などがあります。三叉神経痛の治療法には内服治療や神経ブロックに加えガンマナイフ治療等もあります。しかしながら、いずれの病気も根本的な治療法は、手術により圧迫している責任血管を移動させて神経への圧迫を解除することです(微小血管減圧術)。
当科では、片側顔面痙攣に対して詳細な頭部画像検査から責任血管を同定し、術中モニタリング(聴性脳幹反応:ABR、顔面の異常筋電図:AMR)を併用した安全・確実な手術を行っています。三叉神経痛に対してはまずは適切な薬物治療の選択を行い、薬剤抵抗性の三叉神経痛に対しては、画像検査から責任血管を同定し、安全・確実な手術を行います。いずれの疾患に対しても良好な手術成績を上げており、術後7割から9割の患者さんが顔面痙攣の完全消失や軽減を、痛みの完全消失や軽減を達成しています。

正常圧水頭症

特徴的な三兆候(歩行障害、認知機能障害、排尿障害)を主訴とされる患者さんに対して、詳細な診察を行なった上で頭部画像検査を行います。それらの結果、正常圧水頭症が疑われる患者さんに対して、入院のもと髄液排液テスト(タップテスト)を行なっています。タップテストにて症状の改善を得られた場合は、患者さんへ手術のベネフィット、リスクを十分にご説明した上でシャント手術を行なっています。手術方法は患者様の状態に応じて、脳室腹腔シャントもしくは腰椎腹腔シャントから最良な術式を選択しています。

重症痙性麻痺

脳性麻痺、脊髄障害、脳卒中、脳変性疾患などの様々な疾患の後遺症で手足に強い痙縮を伴う重症痙性麻痺に対して、豊富な経験を有する医師によるバクロフェン髄腔内持続注入用埋込型ポンプ設置(ITB療法)を行なっています。治療を検討する患者様に対して、1泊2日でスクリーニング検査を行い、治療適応と判断した際にはバクロフェンポンプ植込みを行います。その後は外来にて薬剤投与量調整、薬液交換を行います。

その他にも様々な疾患に対する加療を行なっておりますので、いつでもお問い合わせください。

パーキンソン病

パーキンソン病は手の振るえ(振戦)、動きにくさ(寡動)、体の固さ(固縮)などが特徴の疾患です。運動神経などに作用する神経伝達物質(ドーパミン)の分泌をつかさどる黒質細胞の変性、脱落により発症すると考えられているため、ドーパミンを補充する内科的治療が基本的な治療法となります。
しかし、薬では抑えることのできない症状がある場合には外科手術を要する症例があります。また病気の進行に伴い、徐々に薬が効きにくくなり、薬の効果が現れない時間帯が出現したり(ウェアリングオフ)、手足や口が勝手に動いてしまう不随意運動症状(ジスキネジア)が出現したりすることがあります。そのような、薬剤抵抗性であったり、進行期の症状を呈する患者さんにおいて、外科的治療(脳深部刺激療法)が有効である場合があります。脳深部刺激療法は病気を根治したり、進行を抑えたりする効果はありませんが、手術を行うことで、内科的治療の幅が広がり、患者さんの生活の質を向上させることが期待できます。

小児・中枢神経奇形

小児神経外科の領域は、小児の身体の特殊性に加え、小児の疾患特異性から、限られた施設において高度に専門化された治療が行われます。当科では、小児神経外科認定医を中心に、小児科と密に連携して先天奇形に対する治療を行なっています。
(小児特有の脳腫瘍や、もやもや病などの小児脳血管疾患、難治性の小児てんかんの診断・治療も数多く行っております。脳腫瘍・脳血管障害・もやもや病・機能的脳神経外科疾患の項目をご参照ください。)

新生児疾患では、高度医療に対応できる新生児集中治療室との連携は不可欠であり、当院では周産期母子医療センター(産科、小児科、小児外科)とのチーム医療を出生前より行なっています。産科による安全な周産期管理のもと、胎生期におけるエコーや母体MRI検査を行い、それらの結果をもとに周産期母子医療センターにてカンファレンスを行い、疾患の早期診断に努めています。診断後には、出生前から患者さんの家族へ予想される病状を説明し、出生時期の決定、分娩方法、出生後に必要となる検査の予約を含めた最良の治療を選択しています。
代表的な先天奇形は、水頭症と、脊髄髄膜瘤や脊髄脂肪腫を代表とする二分脊椎です。水頭症に対する手術方法は、病態に応じて、脳室腹腔短絡術(シャント手術)と神経内視鏡的手術を使い分けています。

手術後もも長期に渡り、当科にて経過観察を行なっています。二分脊椎は、開放性二分脊椎(脊髄が皮膚表面に露出している脊髄髄膜瘤や脊髄披裂など)(図2)と潜在性二分脊椎(脊髄脂肪腫や先天性皮膚洞など)(図3)に分かれます。いずれも長期的な機能予後を重視した治療が必要で、下肢筋群や肛門括約筋の筋電図モニターを併用しながら最大限の脊髄機能温存を心がけた手術が必要となります。特に当院では、モニタリングを専門にトレーニングを受けた医師・検査技師が絶えずモニターを監視しながら安全・確実な手術を行っています。

小児脳神経外科の大事な役割の一つに、術後の疾患の経過観察を行うとともに、患者さんの長期的な成長発達も観察してゆく必要があります。水頭症や二分脊椎の手術後は、脳・脊髄だけではなく、発達やその他全身の身体的機能を慎重に観察してゆく必要があります。そのため、当科だけではなく、小児科、小児外科、泌尿器科、整形外科、形成外科等と連携し、疾患に対する長期的な治療を行っています。

脊椎・脊髄疾患

脊椎は背骨のことで、脊髄は脳から繋がっている中枢神経であり、その脊椎に囲まれています。脊髄腫瘍は頚部から仙骨部までの脊髄に生じる腫瘍であり、比較的まれな腫瘍です。その腫瘍の場所により脊髄内にできる髄内腫瘍、脊髄を覆う硬膜の内側で脊髄の外側にできる硬膜内髄外腫瘍、硬膜の外にできる髄外腫瘍があります。髄内腫瘍は星細胞腫や上衣腫などの神経膠腫が多く、髄外には神経鞘腫や髄膜種が多く発生します。九州大学病院ではそれぞれの腫瘍に対し入念な術前検討を行い、脊髄機能の温存に努めながら、患者さんのQOLを考慮した積極的な治療を行っています。
脊髄の病気ではしびれや脱力、歩行障害、排尿・排便障害などが生じますが、九州大学病院では可能な限り機能の温存に取り組んでおり、手術の際はMEP(motor evoked potential, 運動誘発電位)やSEP(sensory evoked potential, 感覚誘発電位)を用いて、四肢の運動や感覚機能をモニタリングしながら手術を行なっております。これにより合併症を最小限に抑え、術後も良好な機能予後を得ています。
手術後、病理組織診断を行い、悪性腫瘍であった場合はテモダールやアバスチンなどの化学療法や放射線療法を積極的に行っています。

脊髄上衣腫 手術前
手術後
腰椎神経鞘腫 手術前
手術後

また、九州大学病院では脊髄血管障害に対する治療も積極的に行っています。歩行障害などの様々な脊髄症状が出現する疾患として脊髄硬膜動静脈瘻があります。これは脊髄神経根の硬膜貫通部に動脈と静脈の短絡が生じる病気です。圧の高い動脈血が静脈に直接流入するため、静脈圧が上昇し、脊髄のうっ血が起こります。
診断は造影CTやMRIを行い、脊髄硬膜動静脈瘻を疑う所見があれば脊髄血管造影検査を行い診断を確定します。4Dによる立体的な血管構造の把握が可能であり、正確な診断と治療の検討を行なっております。治療方法は動脈と静脈の短絡路を遮断することにより脊髄のうっ滞を改善することを目的とし、血管内治療と手術治療があります。血管内治療は局所麻酔下にカテーテルを太ももの血管から挿入し、原因血管まで誘導し、塞栓物質を流して直接動脈と静脈の短絡を遮断します。手術療法は全身麻酔下に行い、背中の皮膚を切開し、脊椎を一部削除して病変部に到達し、異常血管を直接遮断することで治療を行います。手術中に蛍光造影や血管造影検査を手術室で行うことで動脈と静脈の短絡が消失していることを確認します。脊髄硬膜動静脈瘻は再発することがあり、治療後も定期的に外来で経過観察を行います。

カテーテルによる血管内治療、塞栓前(左)と塞栓後(右)